2024年度から始まった処遇改善手当の制度は、賃金アップにとどまらず、看護助手が長く安心して働ける職場づくりにつながる重要な施策です。
本記事では、制度の概要や受け取る条件・加算取得までの流れ、さらには2025年以降の見通しまでをわかりやすく解説しています。
制度を正しく理解し、現場と連携して運用することで、人材確保と定着率の向上につなげましょう。


看護助手における処遇改善手当とは?
看護助手の給与や待遇の改善を目的とした国の支援施策はいくつかあり、近年では新たな補助金制度の導入や加算の改定が注目されています。
なかでも特に押さえておきたい制度は、以下の3つです。
- 2024年に実施された「看護補助者処遇改善事業」
- 診療報酬制度における「看護補助体制充実加算」
- 介護職員等を対象とする「処遇改善加算」との違い
それぞれの制度の目的や対象、具体的な内容について、詳しく見ていきましょう。
2024年実施の看護補助者処遇改善事業
2024年2月から5月にかけて実施された「看護補助者処遇改善事業」は、看護補助者の賃金を引き上げることを目的とした国の支援策です。
この取り組みは、政府が掲げる「デフレからの完全脱却」に向けた経済対策の一環でもあり、他の職種と比べて低水準にある看護補助者の賃金を改善し、医療現場での人材確保と定着を後押しすることを目的として行われました。
看護補助者処遇改善事業(2024年実施)の主な概要は以下のとおりです。
項目 | 看護補助者処遇改善事業(2024年実施)の内容 |
---|---|
実施期間 | 令和6年(2024年)2月〜5月 |
対象施設 | 病院・有床診療所 |
対象職種 | 看護補助者(常勤換算) |
支援内容 | 1人(常勤換算)あたり月平均6,000円相当の賃金引き上げに相当する額を補助 |
賃上げ対象 | 基本給(もしくは毎月の手当) |
手続き方法 | 医療機関が都道府県へ申請・報告 |
診療報酬制度における「ベースアップ評価料」など、より継続的な処遇改善策が引き続き講じられています。
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看護助手の給与水準を引き上げることで、採用・定着が容易になり、不足している看護職から看護補助者へのタスク・シフトを進めることが期待されています。


看護補助体制充実加算とは
看護補助体制充実加算は、質の高い看護補助体制を整備している医療機関を評価し、その体制に応じて診療報酬の加算を受けられる制度です。
この制度の背景には、過重な業務を抱える看護師の負担を軽減するために、一部の業務を看護助手へ移行させるという目的があります。あわせて、看護助手のスキルや知識の向上を促し、医療チーム全体の質の向上を図るというニーズも反映されています。
そのため、医療機関には看護補助者が安心して働ける環境を整え、より質の高い療養環境を提供することが求められています。
看護補助体制充実加算の主な評価項目と要件は以下の通りです。
評価項目 | 主な要件・内容 |
---|---|
配置の手厚さ | 当該医療機関で3年以上の勤務経験を有する看護補助者が5割以上配置されていること(ア) |
常時100対1以上の配置基準を満たすこと(イ) | |
看護助手の 研修受講 | 看護補助者は年1回以上の院内研修を受講(ウ) ※研修内容には一定の条件有り |
看護師長・看護師の 研修受講 | 当該病棟の看護師長等、および看護職員は年1回以上の院内研修を受講(エ) |
業務内容の明確化 | 看護補助者が担う業務の整理・役割分担の明文化、業務に必要な能力を段階的に示し育成や評価に活用(オ) |
※看護補助体制充実加算2:イからオを満たすことが必要
※看護補助体制充実加算3:ウ・エを満たすことが必要
参照:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅵ(働き方改革の推進、横断的事項)】」
なお、この加算は看護補助者個人に直接手当として支払われるものではありません。
加算によって医療機関に上乗せされる報酬は、病院全体の経営資源として活用され、人材育成や業務環境の整備などに充てることができます。
その結果、人材の定着や業務の効率化、さらには患者サービスの質の向上といった多方面での効果が期待できる制度となっています。
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「看護補助体制充実加算1」の施設基準を満たすには、一定の条件をクリアする必要があり、簡単なことではありません。
そのため、加算の適用を受けた場合には、該当する病棟の体制を維持・強化するための費用として、適切に活用することが望ましいといえるでしょう。


福祉・介護職員等処遇改善加算との違い
看護補助体制充実加算と、介護職員向けの福祉・介護職員等処遇改善加算制度は、対象となる施設や職種、目的が異なります。
違いを簡潔にまとめると、次のようになります。
項目 | 看護補助体制充実加算 | 福祉・介護職員等処遇改善加算 |
---|---|---|
対象職種 | 看護補助者 | 介護職員・福祉職員 |
主な目的 | 看護補助者の配置・育成・スキル向上・処遇の改善 | 介護・福祉職員の賃金向上、および職場環境改善 |
配置等の要件 | 3年以上の経験者5割以上配置、100対1以上の配置基準(加算1) ※詳細は「看護補助体制充実加算とは」で解説 | 一定割合以上の「介護福祉士の配置」が必要 (キャリアパス要件Ⅴ) |
研修要件 | 年1回以上の院内研修 | 研修計画の策定・実施 (キャリアパス要件Ⅱ) |
福祉・介護職員等処遇改善加算は、賃金改善・キャリアパス・職場環境等の要件が厳格に定められており、加算取得には計画書や実績報告の提出が必要です。
介護職員の人材不足は依然として深刻ですが、「福祉・介護職員等処遇改善加算」により、今後も継続的な待遇改善が期待されています。


医療機関が処遇改善手当を受け取る条件
医療機関が看護助手の処遇改善手当(看護補助者処遇改善事業補助金)を受け取るために、知っておきたい主な条件について紹介します。
処遇改善手当の対象になるかどうかは、以下の3つの要素によって判断されます。
- 医療機関の条件
- 業務内容の範囲
- 雇用形態による対象資格の違い
医療機関
看護補助者処遇改善事業補助金(看護補助者処遇改善事業補助金)を受けるには、勤務先の医療機関が制度の対象であることが大前提です。
すべての病院や診療所が自動的に対象になるわけではないため、対象条件の把握は人事・管理職にとって非常に重要です。
条件 | 内容 |
---|---|
対象施設 | 入院医療を提供する病院や有床診療所 |
対象外となる施設 | 無床診療所(入院設備のないクリニックなど) |
なお、介護老人保健施設や特別養護老人ホームなど、介護保険施設で働く看護助手には、医療機関向けの補助制度ではなく、福祉・介護職員等処遇改善加算の対象となる可能性があります。
業務内容
処遇改善手当(看護補助者処遇改善事業補助金)の支給対象になるかどうかは、日々の業務内容にも大きく関係します。
基本的には、看護師や准看護師の指示のもと、看護補助業務を中心に行っている看護助手が対象となります。
処遇改善手当の対象となる主な業務は以下の通りです。
業務内容 | 業務内容の詳細 |
---|---|
身体介助 | 食事介助/入浴・清拭介助/排泄介助/体位変換 など |
環境整備 | ベッドメイキング/病室の清掃・整理/物品補充・管理 など |
サポート業務 | 検査・移送時の付き添い/医療器具の準備・片付け/書類整理の補助 など |
雇用形態
処遇改善手当(看護補助者処遇改善事業補助金)は、正社員だけでなく、パート・アルバイトの看護助手も対象となります。
ただし、実際の業務内容や雇用契約の詳細によっては対象外となる場合もあります(以下表を参照)。
項目 | 内容 |
---|---|
雇用契約の違い | 医療機関と直接雇用契約を結んでいる看護助手が対象 ※派遣社員や委託業務のスタッフは原則対象外 |
勤務時間の扱い | パート・アルバイトなど非常勤職員も対象常勤換算(フルタイム勤務を基準)で手当額が計算される |
特殊な勤務形態の例 | 育児休業・産休中でも、給与支給がある場合は一部対象になる可能性あり |
人材派遣会社を通じて勤務している看護助手や、清掃・搬送などを請け負う外部業者のスタッフは、医療機関との直接的な雇用関係がないため、処遇改善手当の支給対象外となるため注意しておきましょう。


処遇改善手当を受け取るまでの流れ
看護助手が処遇改善手当に関連する加算を取得し、実際に手当が支給されるまでの一連の流れについて解説します。
現場で働く看護助手に正しく制度の恩恵を届けるためには、要件の確認・申請手続き・体制整備・実績報告のすべてが適切に行われる必要があります。
自院の対象要件の確認
看護助手に処遇改善手当を適用するには、自院が制度の対象となる医療機関であるかどうかを事前に確認しておくことが不可欠です。
処遇改善に関連する制度は「看護補助者処遇改善事業補助」以外にも2024年に新設された「ベースアップ評価料」があり、制度ごとに対象施設の種類や診療報酬の算定状況など、条件が異なります。
制度ごとの対象施設例は以下のとおりです。
制度名 | 対象となる施設・条件の一例 |
---|---|
看護補助者処遇改善事業補助金 (2024年2〜5月実施) | 病院・有床診療所が対象 |
ベースアップ評価料 (2024年度診療報酬改定) | 病院・診療所・訪問看護ステーション (職種を問わず広く対象) |
看護補助者処遇改善事業補助金の場合、医療職の中でも給与が低い看護助手の待遇改善のために実施されたため、具体的な配置が求められている病院又は有床診療所に限定した対象となっています。
必要書類と提出期限を確認
勤務先が処遇改善制度の対象であると確認できたら、次のステップは申請・報告に必要な書類とその提出期限の把握です。
処遇改善関連の加算・補助金制度では、事前の計画書提出や、事後の実績報告などが義務付けられています。書類の不備や提出遅れは、不支給や補助金の返還リスクにつながるため、注意が必要です。
「看護補助者処遇改善事業補助」の場合は、必要とされる書類は以下の通りです。
- 看護補助者処遇改善事業費補助金事業実績報告書(第4号様式)
- 処遇改善報告書【病院】又は、処遇改善報告書【有床診療所】
- 所要額精算書
- 看護補助者処遇改善事業歳入歳出決算書(抄本)
制度によって申請時期や報告の締切は異なるため、所在地の都道府県公式サイトや厚生労働省HP等で、公式発表を必ず確認するようにしましょう。
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書類不備や提出遅れがあると、交付対象外・返還命令のリスクがあるため、要注意です!
看護補助体制の整備と要件の充足
看護補助者処遇改善手当の加算を適切に受けるためには、申請書類の準備と並行して、看護補助体制の整備が不可欠です。
多くの制度では、単なる賃上げではなく、看護補助者の配置・教育・職場環境整備などの仕組みを整えているかどうかが評価されます。
例えば、「看護補助体制充実加算」の適用を受けるためには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 病棟ごとの看護補助者の適切な配置
- 業務範囲・役割の明確化
- 所定研修(例:12時間以上)を修了した者の配置
※詳細は本記事の「看護補助体制充実加算とは」で解説
医療機関の管理者は、該当する加算制度の実施要綱・Q&A・通知文書等を必ず確認し、自施設が要件を満たしているか確認する必要があります。
要件を満たしていない場合は、配置基準の見直しや教育体制の強化を計画的に実施しましょう。
加算適用後の賃金改善実施と報告
処遇改善に関する加算・補助金が承認された後は、計画にもとづいて実際に看護助手の賃金改善を行い、その内容を行政に報告する義務があります。
このフェーズでは計画の確実な実行と、実績の正確な報告が求められます。
医療機関は、加算収入を原資に、計画にもとづいた看護助手の基本給や手当の引き上げを実施し、証拠となる給与明細や賃金台帳を適切に整備・保管することが必要です。
加えて、対象となる看護助手に対して、処遇改善の趣旨や具体的な内容を分かりやすく説明することも大切です。
こうした丁寧な対応により、制度への理解や納得感が高まり、職員のモチベーションや定着率の向上にもつながります。


看護助手の処遇改善手当は今後いつまで続く?2025年以降の見通し
2024年には、看護助手の人材確保と定着を目的として「看護補助者処遇改善事業補助金」が新たに導入されました。
一方で、2024年の診療報酬改定に伴って新設された「ベースアップ評価料」は、現行では2025年まで制度として継続が見込まれています。
国は医療・介護人材の慢性的な不足を踏まえ、看護助手を含む職種の処遇改善を継続して支援していく方針を明言しています。
とはいえ、その財源や仕組みは年度ごとに見直される可能性があり、採用側としては「今後どうなるのか不安」「制度が変わると現場に説明しづらい」と感じる場面もあるかもしれません。
2026年度以降は診療報酬改定のタイミングでさらに内容や仕組みが見直される可能性があります。そのため、現場では今後の制度動向に注視しつつ、最新の公的情報を確認することが重要になるでしょう。
看護助手の処遇改善手当に関するよくある質問
看護助手の処遇改善手当に関してよくある質問とそのポイントについて、わかりやすく紹介します。
非常勤やパートの看護助手も対象?
看護助手に関する処遇改善手当は、正職員に限らず、パートタイム・アルバイトなどの非正規職員も対象となる場合があります。
ただし、「看護補助者処遇改善事業補助金」の場合、勤務先の医療機関と直接雇用契約を結んでいることが条件です(※派遣スタッフは原則対象外)。
手当額は、フルタイム換算(常勤換算)にもとづいて按分されるケースが多く、労働時間に応じて支給額が決まります。
育休・産休・病休中の看護助手も補助対象になる?
休業中でも、一定の給与が支払われている場合は、対象に含まれる可能性があります。
ただし制度によって扱いが異なるため、給与支給の有無や制度ごとの要件を踏まえ、都度確認が必要です。
支給対象に含めるかどうかは、自治体(都道府県)や医療機関の方針によって判断が分かれるため、計画書や実績報告書の作成時には、細かくチェックしておきましょう。
人事や看護師長がやるべきことは?
看護助手に対して処遇改善手当を制度にもとづき正しく支給・運用するには、医療機関側の対応が不可欠です。
まずは、以下の点を確認・整備しておきましょう。
- 活用している処遇改善制度の把握
- 支給対象者と根拠の整理
- 職員への説明や周知
- 賃金台帳・給与明細での「処遇改善分」明記
- 制度改正や報告義務への備え
処遇改善手当は、給与の引き上げだけではなく、働きやすい職場づくりや人材確保のための重要な制度のため、徹底した対応を心がけましょう。
看護助手の処遇改善手当を正しく理解しよう
処遇改善手当は、単なる賃上げではなく、看護助手が安心して長く働ける職場づくりのための大切な制度です。
現場で制度の恩恵をきちんと還元するためには、人事部門や看護師長、事務長の制度理解と運用体制の整備が不可欠です。
職員一人ひとりの業務実態を把握し、対象者に公平に処遇改善を行うことで、モチベーションの向上や離職防止にもつながります。
今後も制度内容は変化が予想されますが、常に最新情報をキャッチアップし、現場と連携しながら柔軟に対応していく姿勢が求められます。
看護助手がやりがいを持って働き続けられる環境づくりこそが、結果として医療機関全体の安定と信頼にもつながるでしょう。
処遇改善制度を上手に活用し、採用・定着の強化にぜひつなげていただければ幸いです。



