
医師事務作業補助者がやってはいけない業務とは?医療事務との違いも解説

「これもお願い」と頼まれたその業務、本当に引き受けて大丈夫でしょうか。
医師事務作業補助者として働く中で、「この業務は自分がやっていい範囲なのだろうか」と不安に感じた経験はありませんか。
法律違反や診療報酬の減点を避け、安心して業務に取り組むためには、医師事務作業補助者に認められている業務範囲を正しく理解しておくことが欠かせません。
本記事では、医師事務作業補助者がやってはいけない業務や、厚生労働省が定める業務範囲をわかりやすく解説します。
さらに、現場で業務範囲外の仕事を指示されたときに、角を立てずに安全・確実に対応するための具体的な対処法も紹介します。


なぜ医師事務作業補助者がやってはいけない業務が存在するのか?
医師事務作業補助者にやってはいけない業務が定められているのは、医師法や診療報酬制度と深く関わっているためです。
たとえば、医師法第17条では「医師でなければ医業をなしてはならない」と規定されています
参照:e-GOV 法令検索「医師法(昭和二十三年法律第二百一号 第十七条)」
また、厚生労働省が定める「医師事務作業補助体制加算」は、医師の事務作業負担を軽減することを目的とした制度であり、医師事務作業補助者を適切に配置することで加算を受けられます。
ただし、この加算はあくまで医師の負担軽減を目的としたものであり、関係のない業務を行っても加算は算定できません。
具体的には、加算算定をしている医療機関では、次のような業務は原則として禁止されています。
- 医師以外からの指示による業務
- 受付や会計などの窓口業務
- 診療報酬明細書(レセプト)の請求業務
- 看護業務の補助
- 院内の物品運搬や在庫管理
- 医療機関の運営・経営に関するデータ収集
そのため、名目上「医師事務作業補助者」という職種であっても、上記の業務を行うことが可能な場合もあります。
つまり、同じ医師事務作業補助者という職種であっても、勤務先によって業務範囲が異なります。自分が担当する業務範囲や役割については、必ず院内の体制を正確に把握しておくことが重要です。
医師事務作業補助者がやってはいけない業務
医師事務作業補助者がやってはいけない業務(加算の対象とならない業務)は、主に以下の通りです。
- 医師以外からの指示による業務
- 受付や会計などの窓口業務
- 診療報酬明細書(レセプト)の請求業務
- 看護業務の補助
- 院内の物品運搬や在庫管理
- 医療機関の運営・経営に関するデータ収集
※ただし、医療機関の医師事務作業補助体制加算の算定状況により異なる
それぞれ詳しく解説していきます。
医師以外からの指示による業務
医師事務作業補助者の業務は、医師の事務作業負担の軽減を目的としており、原則、医師の指示のもとで行います。
医師事務作業補助体制加算の適用を受けている場合は、看護職や事務長など、他職種が直接指示を出すことは制度の趣旨から外れるため出来ません。
たとえば、看護師から「看護部の会議資料を作成してほしい」と依頼された場合、それは医師事務作業補助者の業務範囲外と判断される可能性があります。
こうした依頼を受けた場合は「こちらは〇〇先生からのご指示でしょうか?」と確認し、指示系統を明確にすることが、自身の専門性と役割を守る上で重要です。
受付・窓口における患者対応
受付・窓口で患者対応や会計業務は、基本的に医療事務の専門領域です。
また、医師事務作業補助体制加算の施設基準では、医師の事務作業に専従していることが求められるため、他職種の業務を兼務すると加算の対象外となる可能性があります。
診療報酬明細書(レセプト)の請求業務
診療報酬明細書(レセプト)の作成や点検、DPCコーディングといった診療報酬請求に関する一連の業務は、医師事務作業補助者の担当範囲ではなく、主に病院内の医事課で行うべき業務です。
そのため、医師事務作業補助体制加算の施設基準でも、これらの業務は医師事務作業補助者の仕事内容から除外されています。
看護業務の補助
看護師が行う業務の中には、患者の身体に直接触れる身体介助や移送介助などがあります。
これらは診療報酬制度上、医師の事務作業を補助する役割とは異なる領域に位置づけられており、医師事務作業補助者の業務範囲には含まれません。
医師事務作業補助者がこうした場面に立ち会った場合は、患者の安全を第一に考え、必要に応じて看護師や看護助手に引き継ぎます。
「すぐに担当の方をお呼びしますね」と声かけを行い、適切な職種が対応できるように連携することが望ましい対応といえるでしょう。
院内の物品運搬や在庫管理
院内の物品運搬や在庫管理を日常的かつ主たる業務として行うことは、医師事務作業補助者の本来の役割から外れます。
たとえば、院内を巡回してカルテや検体を回収する、医療材料の在庫を定期的に確認・発注するといった作業は、医師事務作業補助体制加算の要件に抵触する可能性があります。
一方で、診察準備の一環として医師の指示により隣の部屋からレントゲンフィルムを持ってくるなど、診療行為に付随する範囲であれば問題ありません。
医療機関の運営・経営に関するデータ収集
医療機関全体の経営分析や運営方針の決定に関わるデータ収集・資料作成は、医師事務作業補助者の業務範囲には含まれません。
たとえば、病床稼働率や平均在院日数などの経営指標の分析、患者満足度アンケートの集計といった業務は、病院の管理・運営部門が担うべき領域です。
そのため、データ収集や資料作成を依頼された際には、その目的が医師個人の活動のためなのか、病院経営のためなのかを確認し、役割の線引きを明確にすることが重要です。

厚生労働省が定める医師事務作業補助者の業務範囲
厚生労働省が定める医師事務作業補助者の業務範囲(※)は主に以下の通りです。
※医師事務作業補助体制加算の適用を受けるために必要な条件となります。
- 診断書やカルテ(診療録)などの作成補助
- 医師の指示に基づく診察・検査の予約
- 検査に関する説明
- 入院時の患者へのオリエンテーション
- 診療に関わるデータ入力・整理
- 行政上の業務への対応
- 学会・カンファレンス資料の準備
それぞれの詳細を解説していきます。
診断書やカルテ(診療録)などの作成補助
医師の指示による診断書や紹介状などの医療文書の作成補助、日々のカルテの代行入力は、医師事務作業補助者の中核業務です。
医師の指示に基づき、口述内容や検査結果などを正確に電子カルテなどへ入力することで、文書作成にかかる医師の負担を軽減し、診療に集中できる環境を整えるのが医師事務作業補助者の役割です。
- 診断書や紹介状などの医療文書の作成補助
- カルテの代行入力
- 医師の口述や検査結果の入力
ただし、これはあくまで代行入力であり、診断名や治療方針など医学的判断を要する項目を自己判断で記載することはできません。
医師の指示に基づく診察・検査の予約
医師が診察の結果、必要と判断した次回の診察予約や各種検査のオーダーを、電子カルテシステムなどで代行入力して予約を取得する作業は、医師事務作業補助者の業務のひとつです。
- 次回診察の予約入力
- 各種検査オーダーの代行入力
- 必要に応じた予約取得の手続き
これは医師の治療計画を速やかに実行するための重要な事務作業であり、外来運営をスムーズにし、医師が次の患者へ迅速に対応できるようサポートする役割を果たします。
検査に関する説明
検査に関する説明のうち、医師事務作業補助者が担当できるのは、日時・場所・当日の注意事項(食事制限など)といった事務的・手続き的な範囲に限られます。
- 検査実施日時や場所の案内
- 検査当日の準備や食事制限などの注意事項の説明
- 検査に関する手順書に沿った定型的な説明
- 検査への同意書の受け取り
一方、検査の目的やリスク、代替手段など、医学的判断を伴う説明は、インフォームド・コンセントの根幹であり、医師や看護師が行う業務です。
日常的に行われる検査では、院内の手順書に基づく定型的な説明と、検査への同意書の受け取りまでが医師事務作業補助者の業務範囲とされています。
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医療機関によっては医師事務作業補助者ではなく看護師や医師が行うケースもありますが、医師事務が行うことも可能な業務のひとつです。
入院時の患者へのオリエンテーション
入院患者へのオリエンテーションのうち、院内生活に関する事務的な案内は医師事務作業補助者が担当することが可能です。
具体的には、以下のような説明が該当します。
- 病室の設備の使い方
- 面会時間
- 食事の時間
- 入院時に必要な同意書など書類記入の案内
医師事務作業補助者がこの役割を担うことで、医師・看護師はより専門的なケアに集中でき、医療現場の生産性の向上に貢献します。
その際、円滑な連携のためには、「療養上のご質問は看護師から説明があります」と一言添え、患者が誰に何を聞けばよいかを迷わないよう配慮することが大切です。
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医師事務作業補助者が行うオリエンテーションは、医師等から入院に関する医学的な説明(治療計画など)の後に行います。
診療に関わるデータ入力・整理
医師の臨床や研究を目的とした診療データの入力・整理は、医師事務作業補助者が専門性を発揮できる重要な業務です。
日々の診療で蓄積される検査値や治療経過などのデータを、医師の指示のもとで集計・整理し、必要に応じてグラフなどで可視化します。
主な業務例としては、以下が挙げられます。
- 検査結果や治療経過データの入力
- 医師の指示に基づくデータ集計
- グラフや表によるデータの可視化
これにより、医師は治療方針の検討や学会発表の準備をより効率的に行うことができます。
ただし、この業務があくまで医師個人の診療・研究活動の補助であり、病院全体の経営分析のためのデータ収集は医師事務作業補助者の業務範囲外となるため、注意しておきましょう。
行政上の業務への対応
保健所への感染症発生届や、公費負担医療・労働災害に関する報告書など、行政機関へ提出する書類の作成補助も、医師事務作業補助者の役割です。
具体的な対応例としては、以下があります。
- 救急医療情報システムへの入力
- 感染症サーベイランス事業に係る入力
- 院内がん登録等の統計および調査
上記はいずれも「医師が行う業務の補助」として行うものであり、医師の指示に従って正確に行う必要があるため、注意しておきましょう。
学会・カンファレンス資料の準備
医師が行う学会発表や院内カンファレンスの準備を支援することは、医師事務作業補助者の業務の中でも専門性が求められる分野です。
具体的には、医師の指示に基づき以下のような作業を行います。
- 発表に必要な症例データ・臨床データの整理
- データのグラフ化や表の作成
- プレゼンテーション資料の作成
- 関連論文の検索
- 参考文献リストの作成
これらの準備を担うことで、医師は自身の研究や考察に集中でき、結果として医療の質の向上や研究の発展に貢献することができます。


医師事務作業補助者と医療事務との業務の違い
現場で混同されやすい「医師事務作業補助者」と「医療事務」の間には、業務内容において明確な違いがあります。
ここでは、医師事務作業補助者と医療事務との業務の違いについて、次の3つのポイントに分けて解説します。
- 指示者の違い
- 業務目的の違い
- 診療報酬の加算の対象の有無
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医師事務作業補助者と医療事務の違いを理解することで、院内での役割分担が明確になり、円滑な連携が可能です。
また、自分の担当業務の範囲や専門性を守ることにもつながり、不要なトラブルや誤解を防ぎやすくなるでしょう。
指示者の違い
医師事務作業補助者と医療事務の違いのひとつは、業務指示を受ける相手(指示者)です。
それぞれの指示者と業務内容の違いを、表にまとめると次のようになります。
職種 | 指示者 | 業務内容・役割 |
---|---|---|
医師事務作業補助者 | 医師 | 医師の臨床業務を直接サポートするパートナーとして、業務指示は原則すべて医師から受けます。 診療チームの一員として、医師のニーズに迅速に応える役割を担います。 |
医療事務 | 事務長や医事課長などの所属長 | 病院の事務部門に所属し、主に事務長や医事課長など所属長の指示のもとで動きます。 医療機関全体の運営ルールに沿い、受付や会計などの定型業務を行います。 |
医師事務作業補助者が医師以外の職種から直接業務を依頼された場合は、それが医師の指示に基づくものかどうかを必ず確認することが、自身の専門性を守る上でも重要です。
業務目的の違い
医師事務作業補助者と医療事務の業務は、以下のように目的が明確に異なります。
職種 | 業務の目的 |
---|---|
医師事務作業補助者 | 診断書作成の代行や電子カルテ入力などを通じて、医師の事務的負担を軽減すること。 |
医療事務 | 受付から会計、診療報酬明細書(レセプト)の請求業務まで、患者と医療費の流れを円滑に管理し、医療機関の経営を支えること |
目の前の業務が「医師の時間を生み出すためか」あるいは「病院のお金の流れを管理するためか」を意識することで、業務がどちらの役割に属するのかを正しく判断できます。
診療報酬の加算の対象の有無
医師事務作業補助者と医療事務の職種を分ける要因のひとつが、診療報酬制度における扱いの違いです。
違いをわかりやすくまとめると以下の通りです。
職種 | 診療報酬の加算制度 | 詳細 |
---|---|---|
医師事務作業補助者 | あり | 適正に配置・届出されていれば「医師事務作業補助体制加算」の対象となります。 これは国が医師の働き方改革を推進するために設けた診療報酬上の加算で、算定には受付やレセプト業務を兼務せず、医師事務業務への専従が条件のひとつです。 |
医療事務 | なし | 医師事務作業補助体制加算の対象外であり、診療報酬制度において加算は設けられていません。 |
医師事務作業補助者が担う業務は、診療報酬上で医師事務作業補助体制加算として評価されます。
そのため、業務範囲を正しく守ることが医療機関の収益にもつながります。
医師事務作業補助者がやってはいけない業務を指示されたときの対処法
本記事では「医師事務作業補助者がやってはいけない業務」について詳しく解説してきましたが、実際の医療現場では、医師の負担軽減に直接関わりのない業務を依頼される場合もあります。
このように、医師事務作業補助者が業務範囲外の仕事を指示された際に、角を立てずに、安全かつ確実に対応するための対処法は以下の通りです。
やってはいけない業務を指示されたときの対処法
- 自分の業務範囲を再確認する
- 曖昧なまま仕事を引き受けない
- 上司や所属部署に相談・報告する
上記を意識しておくことで、想定外の依頼があっても落ち着いて行動でき、自分の役割と施設基準を守りながら円滑に対応できます。
それぞれ詳しく解説していきます。
自分の業務範囲を再確認する
業務範囲外と思われる指示を受けた際、反射的に返事をするのではなく、まず一呼吸おいて「この業務は本当に自分(医師事務作業補助者)の役割か?」を冷静に判断しましょう。
多忙な医療現場では流れで引き受けてしまいがちですが、立ち止まって確認することが、自分自身と医療機関を守ります。
常に業務範囲を意識して再確認する姿勢は、プロフェッショナルとしての信頼を守り、施設基準の遵守と安全な業務遂行につながるでしょう。
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医師事務作業補助体制加算を適用するためには、その業務を管理・改善する「責任者」を設置することが求められています。
もし自分の業務範囲があいまいで不安に感じた場合は、その責任者を確認し、必ず相談・質問するようにしましょう。
曖昧なまま仕事を引き受けない
指示の内容が曖昧であったり、業務範囲内かどうか判断に迷ったりした場合は、自己判断で進めてはいけません。
曖昧な点を放置したまま業務を引き受けることは、指示者の意図とのズレやルール違反を招く危険性があります。
このようなときは一方的に断るのではなく、まずは内容を確認する姿勢で質問しましょう。
業務内容の確認例
このデータ整理ですが、先生の学会用の資料作成という理解でよろしいでしょうか?
指示の目的を具体的に問い返すことで、指示者にとっても意図を整理するきっかけとなり、必要に応じて修正が可能になります。結果として、双方にとって安全かつ効率的な業務遂行につながるでしょう。
上司や所属部署に相談・報告する
指示された内容が医師事務作業補助者の業務範囲外だった場合は、ひとりで抱え込まず、必ず上司や所属部署へ相談・報告しましょう。
特に、医師事務作業補助体制加算を算定している施設では、厚生労働省の定めにより医師事務作業補助者の業務を管理・改善する責任者の配置が義務付けられています。
報告の際は個人的な感情としてではなく、「診療報酬の施設基準に抵触する可能性があるため、ご相談です」 と、病院経営や制度遵守の観点から客観的に伝えることを心がけましょう。
医師事務作業補助者がやってはいけない業務と正しい役割を理解しよう
本記事では、医師事務作業補助者がやってはいけない業務と、具体的な対処法について解説しました。
- 医師以外からの指示による業務
- 受付や会計などの窓口業務
- 診療報酬明細書(レセプト)の請求業務
- 看護業務の補助
- 院内の物品運搬や在庫管理
- 医療機関の運営・経営に関するデータ収集
やってはいけない業務を正確に理解することは、仕事を制限するためではありません。
医療現場の安全を守り、病院経営にも直結する診療報酬上のルールを遵守しながら、自身の専門性を確立するための大切な指針といえます。
迷ったときは医師事務の業務を管轄する責任者へ確認し、正しい知識と判断力を積み重ねることが、医師のサポートにつながり、医療の質向上にも貢献することができるでしょう。



